わたしのおすすめ

おすすめします。

●10_『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ

この本を読みながら、胸がいっぱいになって胸元に抱く、という行為を繰り返してしまった。
センチメンタルではまったくないのに、こんなに愛おしくなるというのはどういうことなんだろう。

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この本は、アイルランドの男性と結婚し英国に住む著者が、息子が中学に入学してからの1年数か月をつづっているエッセイだ。

(ちなみにこのエッセイの連載はまだ『波』という雑誌で続いているそう)
タイトルは、中学入学してすぐの息子さんの走り書き。

息子さんは小学校はカトリックの名門公立学校に通っていたが、
中学を選ぶ際地元の「元底辺中学校」をチョイスする。
そこでの日々は、(どこでもそうであるように、その環境特有の)毎日様々なことが起こる。
もはや正解がない、という類のことも多い。
頭の中の理屈だけで生きていると、
速攻で行き詰りそうな案件だらけだ。
でも息子くんがいいキャラをしていて、すごく優等生なんだけどシニカルなところもあり、でも真摯に自分が直面する問題に向き合う、と思えばお気楽に構える…こう書いてるとなんか離れていく気がする、
とにかく甘くないクリームチーズを思い出してください、ああいう感じです(わたし比、ちなみにそれで言うとわたしはもっと水っぽい)。
 彼がそうやって自分を発揮して生きていく中で、何かがとけていくし形をかえていく。
本当の人生はオチがないけど、頭の中でこねくりまわしたものよりずっとコクがあってなにかをこえていく。
そんな日々を著者が感傷的ではない文章でこつこつとらえている。

イギリスと全く縁のない私なりに、今のイギリスの現状をニュートラルに受け止められたし、良さも病もふむふむと思った。

そしてその中で生きている一人の男の子やその友達をこんなにも愛しく思うものなのだなあとびっくりした。

同じ年代の自分の弟とかぶったのかもしれないが、彼が生きていること、そこから芽生える関係、一人で身をもって感じてみる違和感、知らぬ間に越えている壁。
そのどれもを、真心からの眼差しで見つめざるを得ない。
彼がカリスマを持っているとか、著者のテクニックが巧みとか、そういうことではないなにかがある。
そのなにかをうまく説明できないが、だからこそいい本なんだろう。

ぜひ読んでみて、好きになったエピソードをきかせてほしいです。

●09_『人生をいじくりまわしてはいけない』水木しげる

水木しげるさんの、様々なところでのインタビューやエッセイを集めた本。
それぞれ個別で書いているのだが、どれも水木さん自身の人生で起こったことについてなので、読んでいくと水木さんの実体みたいなものが浮かび上がってくる。

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私実は(おそらく中高でそういうの読み過ぎたせい)
年輩の人が若い人に説教垂れる系が
好きじゃなくて、
この本も読む前はそうなのかな~?って思ってた。
でも読んでみると、まあ時代が時代だし
ほのかにそういう風味があるものの、
そんなことよりも水木さん自身の生きてきた何かが
体ごと伝わってくる感じで、
ああ水木さんってこういう人だったんだなあって
しみじみ腑に落ちたし好きになった。
私的には吉本ばななさんとのび太
足して2で割った感じ笑
本当に、のんびりして、絵を描いて、
妖怪のことを考えてたい人生なんだな~と。

ざっくりにたテーマのインタビュー・エッセイを
それぞれ章立てしてまとめてあるのだが、
二章の戦争の話が、特に本当に染み入った。
南方にとばされ、左腕を失い、
土人(水木さんのいう先住民)と友達になる話。
ほんとにあったことを、様々な角度から
何度もその章の中で読むことになるので、
水木さんにとっての原体験であり
人生の核みたいな部分が、胸に迫る。
 
水木さんは、のんきだ。
とてつもなくのんきでいられない戦争は、
つらかったろう。
そして、そこでであった土人の方たちとの
奥からじんわり伝わる思いの交わりは、
水木さんの何かを救うに足りたろう。
手の傷から赤ちゃんのにおいがしてきて
治っていった過程は、
私が今まで読んだ中で最も押しつけがましくない
「生かされている」の話だった。

こうやって、多くを語らずとも
浮かび上がる影で、生き様を伝えられる。
ただ自分でいることの柔らかさで
幸せな気持ちになる本です。

●08_『あるかしら書店』ヨシタケシンスケ

ヨシタケシンスケさんという
すごい絵本作家がいるらしい、
っていまの職場に入って知った。
ここ最近の絵本界で圧倒的に人気だと思うけど、
私たちの世代はなかなか知らないかも。
でも、ほんと大人が読んではっとする
ユーモアのセンスの持ち主で、新しい感じ。
是非読んでみてほしい。
(私も数冊しか読んでないが笑)

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この『あるかしら書店』は、
絵本といっても小学校低学年くらいかな?対象の
サイズ、分量。
あるかしら書店、という
「本にまつわる本」の専門店のお話。
なんていうんだろう、
ブラックではけしてないんだけど、
ひとひねりあるナンセンスユーモアが
ふふってなる。
なんか説教たらしい感じではなくて、
ほぼ全部つっこみ待ちみたいなとこあるんだけど、
ふっとぐっとくる部分があったりして。

とりあえずしみじみ思ったのは、
ヨシタケさんは本が好きやねんなあということ。
オタク気質な感じではなく
「本」というものの中にある特異性を
うまく(文字通り)描き出している。

人を助けるのは、生き方を指南した巻物(の人・場合もあるかもしれないけど)ではなくて、
こういう話にふふって笑ったときにできる
心のゆるみ・空間なんだと思う。

●07_『僕が夫に出会うまで』七崎良輔

この春、文春オンラインで掲載されていたコラムが書籍化したもの。(一部がまだ掲載されており読める→https://bunshun.jp/category/boku-ga-otto-ni-deaumade
ゲイである著者が現在の夫と出会うまでの半生が綴られている。

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大前提として、コラムとしてとてもおもしろい。
基本的に人間の生きてきた跡は
それぞれの味でおもしろい(興味深い)が、
これはそのおもしろさがコラムという形をとると
最大限味が染み出るというタイプの人の
生きた跡だ。
著者からしたら
忘れられなかっただけかもしれないし、
もちろん本当に本当に辛かったことだろうが、
ドラマチックとか感動的とか、
そういうキラキラしたエピソードとは無縁の
ちょっとした話がめちゃおもしろい。
セーラームーンのエピソードとか、
本にしか書いてない様々な交際の歴とか。

そのうえで、
クソみたいだと思った悔しさや生きづらさ、
それ故本気で黒魔術を学んだこと(!笑)、
ふとすっと分かり合える、
わいわいした友達に恵まれたこと。
そういう著者の性質と生き方の癖が、
そのままで花開いて人生を生きている。

かなーり性的なことまでオープンだけど、
当時の自分はきれいな言葉が並んだ本を読んでも
あまり心を開けなかったと思う、
泥臭くても真実の言葉を求めたと思う、という
著者の気持ちが入っている。

全く違うけど和牛の漫才を見たときのような、
変わってても性格ひん曲がっててもいいじゃん、
それを受け入れてくれる人がいるんだから、
と素直に思えた。

●06_『「国語」から旅立って』温又柔

本の装丁(デザインのことです)が、
めっちゃ台湾!な感じだったので思わず買い。
この色のトーンとフォントと、かもしだす雰囲気が
めちゃ台北に最近ありそう。

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内容としては、台湾の人で、
2歳から日本で育った温さんが、
「国語」について感じてきたことをたどる
エッセイになっている。
言葉はなぜか、温さんにとっての
生き延びるための魔法だったんだなあということ、
だからこそ、
ニホンゴ・チュウゴクゴ・タイワンゴという、
きれいに割り切れない言葉文化の寄る辺を探して、
すごく切実に悩んできたんだなあということが
しみじみ伝わってきた。

私がすごくおもしろかったのは、
中学1年のとき台湾の親せきの家で
成龍ジャッキー・チェン)』と
『小叮噹(ドラえもん)』のビデオを
見たときの話。

まず『成龍』を見たが、
温さんは全く國語(台湾の国語)が分からず苦痛。
その後『小叮噹』を見たとき、温さん姉妹は爆笑。
日本の声優さんと違うため、
声がかなりイメージと違うのだ。
それを不思議に思う台湾のいとこたち。
妹さんが「本当のドラえもんはこういう声じゃないんだよ」といい、
「前からずっとこの声だよ」といういとこ。
「日本のドラえもんはこういう声じゃないの。」
「本当のドラえもんは日本語をしゃべるしね」
と妹さんが言った。

それを聞きながら、「本当」ってなんだろう、と
いとこの気持ちがわかる温さん。
なぜなら、さっき見たジャッキー・チェンの声が、
石丸博也さんの声でないことに
違和感を感じていたからだ。

この話のくだりはめ~っちゃわかる、
「小魔女DoReMi(おジャ魔女どれみ)」の
私にとってのオリジナルは台湾國語を話すから。

固執するのは違うけど、
そして時に苦みを感じたりもするけれど。
その人にとっての気になるポイントというのは
その人を助けるんだなあと思う。
丁寧に、深く掘っていけばいいと思う。
温さんにとってはそれが言葉だったんだな~、
私にとってはなんだろうということを、
読んでから考えました。

☆05_『幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう?』幡野広志

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私はひとのやさしさがすきだし、
そういうものがふわっと誰かを包む瞬間が好きだ。
私自身が、エクスペクトパトローナムに
助けてもらったと思っている。

でも、それって湿度や志や風通しを間違えると
嫌な後味の残る添加物でしかない。
畑と一緒、庭と一緒なんだって最近気づいた。
片方に凝り固まるのは、強さではなく未熟。
無理に引き延ばして大きくするのは、巡りの停止。
ふわふわでバランスの良い土、
そこをクリーニングして、
気持ちよい程度に手を入れて、
すこやかさをたもつ。
そうやっていきたいんだって。

前置きが長くなったが、そんな私の気持ちを
全く違う角度で助けてくれたのが、
この『幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう?』(https://cakes.mu/series/4217)だ。

これは、04で紹介した幡野広志さんに、
全く関係ない人が全く脈絡のない質問をして、
それに週1回幡野さんが答える場。

cakesというNETサービスの中の記事なんだけど、
姉妹版のnoteと合わせて
個人的に好きなコンテンツ。
cakesの方は月額500円で読み放題で、
この前勢いで登録した。
でも、最新の記事は無料で読めるよ。

04で紹介した本よりも、
私にはこちらのほうがおもしろい。
めちゃくちゃ脈絡のない質問の連続で、
言葉の流れに、その人それぞれの
生き方の癖や行き詰まり具合が見える。
それにたんたんと応じていく
幡野さんがおもしろい。

幡野さんはこう感じるんだ、という
それ以上でもそれ以下でもない言葉。
それって人が発する言葉として、
最も良い状態なんだろうなとおもう。
変な残りがなくて、
しみじみ、そうなんだろうな~~という
気持ちになるだけ。
その中にある甘くないあたたかさが、
やさしさってすきだなあ、という気持ちになる。

でもそうとう、厳しいことを言っていると思う。笑
めちゃおもろかったのは、
「あなたの夢に彼女が出てきても、彼女の夢にあなたは出てきません。」
という一文です。笑

あと、今日現在で無料公開の、
『「 さっさと別れればいいじゃん」って、
100人中98人ぐらいはおもいそうな相談』
もかなりおもろいのでぜひ。笑

●04_『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』幡野広志

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さっぱりした。
たんたんと生きるってこういうこと。

幡野さんはがんにかかっていて、
余命3年から1年ほど経過しあと2年。
死ぬまでに、
息子が大きくなったとき読んでほしいことを
自費出版しようと思っていたものが、
こうして本になった。

でも、はっするものは、
力みのある雄たけびでも、
変な湿り気のある訴えでもない。
そうかあとこれくらいか、
じゃあこうやってこつこつ生きよう、みたいな。
なんかその態度に触れて、
みんな死ぬんだよな、って思った。
先を見通したつもりで
空回ることってない?(私のこと)
そういうことではなく、
その得体のしれない大きな「先」を、
丁寧に小さくこつこつ割っていって、
それをひとつずつ味わっていくということ。
すっごい当たり前の、でも本質を教えてくれる。

自分の人生を、じっとりしたものの中からではなく見つめなおす。
この人は、この人として生きる上の必要条件として
その才能を持っている。

そして意外とそういうものから真逆だった私が、
大げさに、ではなくたんたんとそれを受け入れているのがおもしろい。
今にしかいられなくなったら、
どこか遠くではなく今ここがリアルなら、
それは自分の人生だろう。

この本を読んで
「生きること」を思ったときにあるのは、
ひたすら、ずしんと自分で受け止めるしかない重みなんだけど、
それ以上でもそれ以下でもないのが心地いい。
余分なまとわりつくものがない、ということが
人生だと思う。

みんな死ぬし、それは日常。
でもそこに力まず、過呼吸にならず、
吸ったら吐いてればちゃんと死ねる。
そして、それまでは生きていられる。
すごいことだとおもった。